アフリカで電気の量り売りをするWASSHAとは
アフリカ中央部にあるタンザニアで、電気の量り売りビジネスをしている会社があります。
東京に本社があるWASSHA株式会社です。
WASSHAは「ワッシャ」と発音して、スワヒリ語で「火をともす」の意味です。
『電気の量り売り』とは聞きなれない言葉だし、イメージも湧きませんが、アフリカの事情を理解すると『なるほど!』と感心させられるビジネスです。
このビジネスを理解するためには、まず、アフリカ特有の未電化地域の状況を知ることが必要です。
アフリカの未電化地域の問題点
アフリカには電気が通っていない小さな集落がたくさんあります。
未開発なので今はまだ電気が通っていないけれども、いずれ電気が来るだろうと考えるかもしれませんが、そんなに簡単なことではないのです。
電力供給のビジネスモデルが成立しない厳しい環境に置かれているのが現実です。
電力ビジネスが成立しない
アフリカのサハラ砂漠の南側全域をサブ サハラ アフリカといいます。
この地域は人口密度が低く、人々が小さな集落を作ってバラバラに住んでいます。
一つの集落の戸数が数軒しかないこともあり、たくさんの電柱を建てて電気を送っても、送電設備費用の償却ができません。
だから、アフリカの電力会社は、都会にだけ電力を供給して過疎地への電力供給を諦めているのです。
このように電力ビジネスが成立しない過疎地を未電化地域と言います。
タンザニアの電力事情
タンザニアでは、人口約5,000万人のうち、3,500万人が電化されていない地域で暮らしています。
タンザニアの電力会社は国営の1社だけです。
赤字が続いていて未電化地域に設備投資をする余裕がない状態です。
送電ができているのは、事実上の首都のダルエスサラームと、ビクトリア湖畔のムワンザ、ザンビアとの国境に近いムベヤなどの主要都市に限られています。
この状況を直ちに打開できる妙案が見つからず、当分の間、未電化地域は放置されたままの見通しなのです。
しかも火災の危険があり、煤(すす)による健康被害もあります。
テレビがないので情報が少なく、ラジオが重要な役割を果たしますが、電気が来ていないのであまり普及していません。
電気が通っていないのに、携帯電話が普及している不思議な状況です。
携帯電話の充電は、代表者がバイクで街まで出かけて、まとめて預かった村中の電話を充電するのです。
電柱が要らない電力供給のアイディアが面白い
送電のための鉄塔や電柱を建てて電気を送ることが出来ないなら、消費地で発電しようとは、誰でも考えることです。
事実、ソーラーホームシステムの販売やリースなど、中~高所得層をターゲットにしたビジネスを手がけている商社などのグループがありますが、低所得者層にとっては高すぎるのでとても手が出せません。
定期的な収入源を持たず所得が不安定な低所得者層が、未電化地域に住む人の過半数だろうとは、WASSHAの肌感覚です。
そこで、少量の電気を低所得者層でも購入することが出来るようなビジネスモデルがWASSHAの『電力の量り売り』なのです。
極めて簡単に仕組みを書くとこんなことです。
- 現地での発電には、太陽電池パネルを使います。
- 販売は、地元の村には必ずある雑貨屋さん(『キオスク』といいます)を活用します。
- 料金分の電気量をバッテリーに充電して引き渡すのです。
各家庭に電線を引かずに、バッテリーで引き渡すところが『電気の量り売り』というわけです。
実際にエンドユーザーに貸し出す品目は
エンドユーザーに貸し出す商品は現在のところ、次の4品目です。
- LEDランタンの貸出し
- ラジオの貸出し
- タブレットの貸出し
- 携帯電話の充電
最も効果的なのは照明です。
灯油ランプの20倍も明るいので、商店の営業時間延長と収入アップ、子供の学習など、生活が豊かになりました。
WASSHAのビジネスの仕組み
【1】最初にWASSHA社が現地のKIOSK(村の雑貨屋さん)とレンタル業務の契約をします。
【2】契約が完了すると、WASSHAからKIOSKに対して、発電と充電のための機器が無償で貸し出されます。
貸し出す機器は、次の品々です。
設備を設置する場所は、各村に必ずあるキオスクです。
貸し出し設備は30分もあれば設置でき、イニシャルコストはすべてWASSHAが負担しますから、KIOSKには経済的な負担はありません。
- WPD(WASSHA Power Device)
WPDには20個のUSBポートがついており、携帯電話やLEDランプの充電ができます。
- 太陽光パネル
- バッテリー
- WASSHAコントローラー
コントローラー内のWASSHAアプリは、1時間に1回、各キオスクの売上情報、発電情報、蓄電情報をサーバーに自動送信しています。
これらのデータをダッシュボード上で管理・分析することで、離れた場所からビジネスの状況を確認しサポートすることができます。
実際の物品の写真がこれです。
【3】機器の設置が終われば、KIOSKオーナーからWASSHAに事前に料金を支払いますが、このときの決済には、モバイルマネーを使います。
キオスクのオーナーがモバイルマネーで料金を支払うと、6桁コードが発行され、そのコードをアプリに入力することによって、料金ぶんの電気が使えるようになります。
これがモバイルマネーで、現金に換金することもできます。
携帯電話のキャリアごとにサービスが提供されていて、VodafoneグループのSafaricom(本社・ケニア)が提供しているM-Pesaなどが有名です。
別の携帯キャリアに送金するには手数料がかかりますから、WASSHAではタンザニアで広く使われている携帯キャリア4社に対応して、どのキャリアからでも手数料がかからないようにしています。
【4】KIOSKでは、充電済みのLEDランタンやラジオを、地域のエンドユーザーにレンタルします。
電力売上の16%が店に入る収入で、1店舗あたりの月平均利益は、日本円換算で2万円程度です。
【5】エンドユーザーは、キオスクのオーナーに現金を支払って、WPDで携帯電話の充電をしたり、あらかじめ充電しておいたLEDランプを借りて灯りにしたりします。
金額は、LEDランタンの料金が1泊2日で25円程度と、灯油ランプのコスト(1日約30円)より割安なので利用者が増えています。
店舗数は
タンザニアでは2015年1月から本格的に事業をスタートさせました。
ランタンを置いてくれるキオスクの数は2018年8月末の時点で1,000店舗になりました。
これで150万〜200万人が電気にアクセスできる環境になったと見込んでいます。
上記の画像は下の動画から引用しました。
英語版ですが、映像を見てイメージを捉えてください。
WASSHAとはどんな会社
未開地に安く電気を供給すると聞いて、ボランティアのような印象を持ったかもしれませんが、無償のボランティでは、継続性がありません。
創業者の一人であり、WASSHAの代表取締役CEOである秋田智司さん(1981年5月生)です。
東大大学院の研究からスタート
WASSHA株式会社の前身であるDigital Grid社は、もともと、東京大学大学院の阿部力也教授の「電力ネットワークイノベーション(デジタルグリッド)」の研究からスピンオフした会社です。
創業者は、阿部教授と秋田さんです。
2011年6月 | 東京大学総括寄付講座「電力ネットワークイノベーション(デジタルグリッド)」設立 |
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2011年9月 | 上記の研究成果をもとに一般社団法人デジタルグリッドコンソーシアム設立 |
2012年11月 | 上記コンソーシアムにおいて、デジタルグリッドルータMarkⅠ・Ⅱ・Ⅲを試作。その成果をもとに株式会社Digital Grid設立 |
2017年4月 | 上記総括寄付講座終了に伴い、東京大学社会連携講座「インターネットオブエナジー(IOE)」を設立。 |
2017年10月 | 上記社会連携講座参加企業等の出資を受け、デジタルグリッドプラットフォーム株式会社設立 |
2017年12月 | デジタルグリッドプラットフォーム株式会社は株式会社Digital Gridよりドメイン、商標等の譲渡を受ける。 一方、株式会社Digital Gridはアフリカにおける無電化地域再エネ電化事業に専念すると共に、Wassha株式会社に社名変更。 |
出展 デジタルグリッド株式会社
WASSHA社では、JICA(国際協力機構)や各種ファンドから資金調達をしており、2018年8月には、大手商社の丸紅が、WASSHA 株式会社への出資を発表しました。
ワッシャ社への出資比率は、最終的に約21%となる予定です。